放射線と医学の研究室

そろそろ画像を導入したいこのごろです

PET

最近話題のテーマです.

PETとはPositron Emission Tomography(陽電子放出型断層撮影)の略称で,陽電子(ポジトロン)という放射線を放出する物質で標識した薬剤を体内に投与(静脈注射や吸入にて)してその体内分布を画像化する撮影法です.
以前に書いた核医学と同様に体内の臓器などの機能に関する情報を得られる検査方法です.
ではどこが違うのか…

まずは薬剤が違うのです.
一般的な核医学ではコバルト,テクネチウム,ヨウ素,インジウムなどが用いられますがPETでは炭素や窒素,酸素にフッ素といったものが用いられます.
核医学の核種は各部位・臓器に集まる性質のものを選んで検査を行っているのですが,PETでは生体内にある元素を用いていることになります.
細胞の代謝などの情報を用いるため,体内で使用して診断できる部位や病気が増えます.
またアミノ酸代謝などはこれまでの核医学ではうまく出来なかった方面の検査であり,これらも生体内の元素を使用するメリットかと思います.

次に放射線の検出方法も少し変わってきます.
核医学では体内から出てくる1本の放射線を直接検出していますがPETでは180°方向・正反対に放出される2本のガンマ線を計測します.
これはポジトロン核種の性質によるものですが,誤差が少ない方法と考えることも出来ます.
より正確な検査が出来ます.
このため機器も専用装置を用いることが多いです.
一般の核医学の機器であるSPECT(こちらは単一光子:Single Photonの略から)と兼用の装置もあります.

では何故流行るか.
現在,病気の早期発見や治療後の経過という点で注目が集まっています.
特に,脳疾患・心臓病・癌に対しては個々の機能的異常を正確かつ事前に見つけられるという点で非常に優れた検査法と言えるでしょう.
PETは全身の画像を一度に撮像でき,X線CTのように断層画像を数ミリ単位で得ることもできるので癌の発見に非常に威力を発揮します。

また,全身を30分程度で検査できることもメリットです.
従来は健診で脳ドックでは脳だけ,胸部エックス線では肺だけというようにそれぞれの臓器を検査していました.
しかし病気は身体のどの臓器にでも起こりうるし検査した場所以外に病変があれば見落としてしまう危険性があります.
PETでは一度に全身を撮像できるので,癌の転移など異常が体のどこにあるか事前にわからない時でも発見される可能性が高くなるのです。

近年薬剤が保険診療で認められ始め,このため話題になっています.
現在各地でポジトロン核種を製造する施設(サイクロトロンという装置を有する)が出来てきており来年くらいから本格的に流行り始める模様.
なぜ各地に…といえば,体内元素は放射能がすぐに弱まるため.
数分単位で半減してしまうものが多いので検査施設の近くに元素を製造する施設も必要なのです.
そしてそのようなすぐに放射能が弱まるものを用いるから体への影響も少なくて済むのです.

特にフッ素による癌の全身検査に注目が集まっています.
まだまだ高価な検査になりましょうが,いつかがん健診の姿を変えるかもしれないものです.

骨粗しょう症の調べ方

実際は???

名前もその怖さも知られつつその検査についてはよくわからない方も多いのではないでしょうか?
ちょっとくらい知っていても損しないかな、ということで書いてみようと思います。

まずは骨粗しょう症の復習を。

骨は身体のほかの組織と同じく新陳代謝をくり返しており、骨ができること = 骨形成と、骨が溶け出すこと = 骨吸収とがバランスよく行われることによって丈夫な骨を維持しています。
骨形成を促進する要素として女性ホルモン(エストロゲン)やビタミンDなどが、骨吸収を促進する因子として副甲状腺ホルモンなどが、バランスよく影響しあって作用しているのです。
骨粗鬆症というのは、様々な原因でこの骨形成と骨吸収のバランスが崩れて骨量(骨塩量)が低下した状態を言います。
骨量が低下すると骨の強度が低下し骨折しやすくなり、さらに進行すると日常生活でも骨折が起きたりして、寝たきりの原因になることも多いので軽視できない症状なのです。

骨量は20~30歳代をピ-クに、40歳を過ぎる頃から骨形成と骨吸収の絶妙なバランスが少しづつ崩れるようになり減少していきます。
骨量の減り方には男女差があり、女性は閉経期を迎える50歳代からぐんと減り、70歳代には若いころの半分近くに、男性は80歳代で若いころの半分近くになってしまいます。

このように骨量は何もしない状態でも加齢とともに減少する一方なのですが、この他にカルシウム摂取不足や運動不足、日照時間欠乏、遺伝子的因子などの要因が加わると、さらにその危険性は高くなってしまいます。

予防としては

  • カルシウム摂取
  • 禁煙
  • 毎日の運動
  • 日光になるべく当たる

等等です。

で、その測定手法が今回の本題。
放射線技師のお仕事になってくるわけです。
簡単に分類しますと

  • X線フィルム上の骨濃度の測定(RA/MD)
  • X線の骨に対する吸収の測定(SXAとDXA)
  • 骨のCT番号(QCTとpQCT)
  • 超音波の骨の伝播速度や超音波の骨の減衰率

といった各手法があります。

部位は腰椎(つまり腰骨)が基準となっています。
再現性が高く広い年齢を対象にできること、また骨の密度ばかりでなく治療効果の判定(薬の効果を見やすい)にも適しており広く用いられています。
形状の変化によって過大評価が起こるという報告も出ていますが、まずは主流の手法の一つです。

技術的には2つのエネルギーの違うX線を使って算出するものです。
X線は骨のほかに軟部組織(内臓なんか)にも吸収されますので2段階で吸収されるのですが、軟部組織の吸収を連立方程式にして式から外して…といった作業をするんです。
で、残った骨の条件やデータから骨量を得るものです。

最後のほうはちょっとわかりにくいので後日また勉強してアップします。
式を書き出したら…俄然わかりにくいので。
でも興味を持って欲しいものです。
少々お待ちくださいね。

放射線、発ガン、被爆って本当のところ???

こういうこと、感じませんか?

2月上旬、テレビや週刊誌面を一気に占拠した「医療被曝で日本人のがん増加率が3.2%」という話題。
今回はその論文の実際から本当の危険性まで、少ない知識ですが考えていきたいと思います。

事の発端は医学雑誌「ランセット」に掲載された論文です。
その中で英国等14カ国に関しての研究結果と考察が述べられているわけです。
今回は「INNER VISION」という雑誌や各種の文献を参考にしております。

結果のみ書くと

診断用X線被爆による発ガンリスクが他国が0.6~1.8%であるが日本は3.2%

というものです。
主にCT検査なんかを考えていただけるといいかと思います。
つまり、数値のみを単純比較すると発ガン率が2~3倍ということになるのです。

この数値で日本のマスコミは大騒ぎでした。
ところが、精査していくとこう簡単に結論付け出来ない部分も見えてくるわけで。

まずはベースになっているのが原爆の放射線であることです。
広島と長崎の原爆生存者のデータから得られた発ガンと生存期間のデータに照らし合わせて行われた研究です。

つまり、実際に診療で用いられる放射線とは質の異なるもので強度の数値だけが一緒ということになります。
それと、原爆の場合は放射線を浴びた食物や水を口に入れた可能性もあるわけで内側からの被爆という条件もあるので本来一概に言えないもののように思われます。

また、この論文の目的が不要な被爆を避けるためのものであろうこと。つまり建設的な意味も持っていること。
日本で検査件数が多いことへの警鐘でもあるのでしょう、この論文。
「最初に読んだときにはこんなに騒がれると思わなかった」と言う専門家もいます。
いたずらに扇情的な見出しを掲載した、商業主義満載のマスコミの対応には憤りを感じます。

上記で不要な心配を多少減らしたところで本題に。

日本のX線検査が多いのは明白なようです。
ある文献によれば国内でX線CT装置は1万台以上が稼動し、世界の1/3が日本で稼動しているとも言われるそうです。
これだけの台数ですし、受診した方も結構いるのではないでしょうか?

年々精度も向上し、被ばく線量自体も機器の進歩や放射線関連のスタッフの努力とともに減少傾向です。
しかしCTはX線の単純撮影と比べると明らかに撮影している時間が長く、撮影箇所も多岐に渡るため被爆は多めです。
さらに言えばCTは万能だしCTでしか出来得ない撮影もあるので検査件数はどうしても多くなります。
検査件数が増えるのは保険制度のおかげで簡単に受診できる、という向きもあるようですが。

大きな恩恵を得ている検査故に多くの人が受診するのですが、リスクがゼロはありません。
X線を用いる以上避けられない道であるし、医療従事者の努力がさらに必要になる部分です。

また、受診者、患者さん、一般市民の理解が少ないのは否めないように思います。
そういう部分につけ込んだマスコミの手法は本当に腹立たしいものですが、それは医療従事者とそれ以外の人との相互理解の不足も示しているのでしょう。

現在の医療で放射線診療を欠かすことは出来ないのが現状ですし、そこから大きな恩恵を受けています。
医療従事者もより安全に精密な検査が出来るように努力を続けています。
そして、たくさんの検査結果から安心を得ようとする日本の風潮…

本来の検査で得られる恩恵を受けるためにも医療従事者は情報の発信をしなければならないし、一般市民もいたずらに恐れるばかりでは駄目なのでは?と感じています。
こちらから発する情報もよりわかりやすく、かつ診療行為の意義を伝えるものでなければと思います。

核医学

よくわからない人、多いのでは?

検査件数の割に認知度が低いかもしれない核医学。
実は前述のマンモや治療に比べてネット上の情報も少ないようです。
集検でもないし放射線検査といえば単純撮影にCT、MRIあたりの印象が強いせいでしょうか。
実際、ドラマの重大な疾患が見つかるのはおおかたCTなんですよね。

ガンマ線という放射線を放出する少量のくすり - これを「放射性医薬品」といいます - を静脈から注射し、検査用のベッドの上で静かに横になっている間に、ガンマカメラで体の中の様子を画像(シンチグラム)にする方法です。
静脈から注射するほかに、くすりによっては、カプセルを飲むものや呼吸によって吸入するものなどがあります。
多くの場合はガンマカメラで、体の中の状態を画像にして診断しますが、他の装置で計測するものもあります。

原理はこのような感じなのですが、検査だけならX線検査だけでもいいわけ。
独特の効果があるからこのジャンルが存在するのです。

検査は、治療方法の決定と治療効果のチェックといった二つの目的で行われますが、核医学検査はおもに臓器の働き(機能)を、CTやMRIや超音波検査は形状(位置)を調べます。

必要な検査を組み合わせて行うことで、病気の形状や働きがわかります。
その結果、治療の方針を決めたり、効果的な治療が行われているかを判断したりすることができるのです。

つまり、放射性医薬品がどのような速さで・どこに・どれだけ集まってくるかを調べることで、病気の状態を形状の異常が現れる前に診断できます。

それにしても、体内に放射性物質を入れるのはなんとなく怖いもの。
そこでこんなデータがあります。

1999年度に副作用の調査があったそうですが、放射性医薬品の投与件数137万件に対して、29件の報告があったのだそうです。
副作用の程度は、軽微が19件、中等度が10件となっており、重篤なものは無いようです。
また、副作用の内容は、血管迷走神経反応13件、アレルギー9件、その他7件で、症状としては、顔面紅潮、悪心、吐気、めまい、気分不良、皮膚発赤、発疹、そう痒感、脱力感、動悸、発汗などでした。

検査用の放射性医薬品に含まれるアイソトープの量はわずかで、且つすぐに放射能が弱まって行くので放射線影響の点から見ても心配はありません。
投与されるアイソトープの種類や量は、放射線治療の成績や広島、長崎の被爆者のデータ、動物実験の結果などから国際放射線防護委員会の詳細な検討に基づいて、患者さんの利益ができるだけ大きくなるように決められます。
また、被ばく線量は一般のX線検査と同等なので特に問題が無い状況です。

一般の薬が効く病気効かない病気があるように、核医学の薬品も集まる部位集まらない部位があります。
一般の撮影のように写す場所によって放射線の強さを変えたりする作業が無いのも特徴です。
病気であったり機能の異常がある場合は普段と集まり方が違ってくるのでわかりやすい、という部分もあります。

部位ごとに薬品が違いますが、適応部位は

  • 骨(骨シンチ:がんが骨へ転移していないかの確認。また、骨の炎症、骨折、その他多くの骨の病気の診断)
  • 脳(CT、MRIで形の異常が確認される前に機能の異常を診断可能)
  • 心臓(血液の足りない心臓の筋肉がどこで、その筋肉は治療で治る見込みがあるかどうか調べるのが主な目的)
  • 肺(肺血流を妨げる血栓の箇所。また、治療の効果の確認)
  • 腎臓(両方の腎臓のろ過機能の異常の有無)
  • 甲状腺(機能の診断、甲状腺の癌の有無)
  • 副腎(機能の診断、副腎の腫瘍の有無)

といったあたりです。
特に骨は癌の骨転移(肺・前立腺・乳がんで多い)があり、検査数は最大です。
この他に腫瘍や炎症の検査に用いるケースも多く、非常に意義ある検査なのです。

馴染みの薄いものだったかと思いますが、難しくなかったでしょうか?
形ばかりでなく機能がわかるこの核医学検査、ちょっとでも知っていただけると幸いです。

マンモグラフィ

現在の研究からは少々離れますが、癌に関わること、放射線技師に関わることでもありますので記述していきたいと思います。

乳がんは日本でも女性のがん死亡率の高位を占めるようになってきました。ご存知のとおり乳がん検診は問診と触診を主体として行われてきましたが、触知できないような早期の乳がん診断にはマンモグラフィは極めて有用であるとの報告も出され、乳がん検診へのマンモグラフィの導入が進められようとしています。
決して日本では導入がスムーズとは言い難く、導入率も5割を超えた程度で地域格差も大きいです。先日も新聞で話題になりましたし、せっかくの効果的な技術の扱いとしては決して恵まれた状態ではないのが現実ですが…

ではマンモグラフィ(乳房X線撮影)とはどんなものなのでしょう?

乳房のX線撮影のことを、マンモグラフィといいます(マンモとは乳房を意味するマンマからきています)。
マンモグラフィは、一般のX線検査などと同じ原理で、乳房にX線を当てそのエックス線の吸収の差をフイルムに写し出すものです。しかし、乳房は全体が柔らかい組織で吸収差が少ないため、良いX線写真を撮るためには、専用のX線装置やフイルムを使う必要があります。
マンモグラフィでは、触診のむずかしい小さながんを描出することもできます。また、今回撮った写真を以前のものと比較することによって乳房組織の微妙な変化がわかります。
撮影は、乳房を片方ずつフイルムを入れた台と透明なプラスチックの板で、上下や斜めなどからはさんで撮影します。(圧迫といいます)

さて、圧迫はなぜ必要なのでしょう?
これは、X線ができる限り正確な像をつくれるようにするためです。また、圧迫することで被ばく線量が軽減でき、動きによるボケも防止できます。圧迫の際に痛みを伴うことがありますが、痛みの感じ方は人によって違います。リラックスすることによって痛みは減少する場合もあるとのことです。

いかに診療行為とはいえ、内容が内容だけに男性である私は少々腰が引けそうですし事実男性だと緊張してしまう患者さんもいるのだそうです…が、正しい技術と緊張を与えない態度をしっかり学び、この手法の効果を最大限に発揮できるようにしたいもの。
また、多くの男性放射線技師によるマンモグラフィが思いの外(?)患者さんに受け入れられており、それが技術も接遇面もしっかりしているためであることも付記したいと思います。

放射線治療

ただいま学校でやっている研究です。

皆さんも放射線はご存知かと思います。
また、各種の報道や理科などの知識から大量に放射線を浴びると体に害があることはぼんやり感じておられるのではないでしょうか。

放射線治療は病変部位(主にがんです)に放射線を集めることでその部分に悪影響を与え、回復を図ろうとするものです。
正常な部分にも影響があるのでは…といった心配もありましょうが機器の精度が良いので普通はそんなに影響がないようですし、より正常部位への照射を減らすよう研究がされています。

簡単に仕組みを説明しましょう。
放射線治療で照射される量のX線は細胞のDNAを傷つけます。
DNAは細胞が分裂して増殖するときに必要な情報を含んでいるため、DNAが障害された細胞は次に細胞分裂するときに死滅します。
放射線は正常組織細胞にもがん細胞にも作用しますが、正常組織は放射線が照射されてから数時間経過すると自分自身でDNAの障害の修復をします。
がん細胞はこの修復作用が弱いので、結果としてがん細胞が放射線で死滅し、正常組織は生き残るのです。

外科手術の場合のように切除の必要が無いことや入院期間を減らしたり病気や計画によっては通院で治療が可能、という場合もありメリットは様々です。
しかし当然ながら過剰な照射になる場合もあるし放射線宿酔(頭痛や吐き気など)や照射された部分の炎症、といった副作用もあります。
他の種類の治療と同様に進化しつづけているためやりがいもありながら難しいものです。

脳や乳房・泌尿器といった外科手術を避けたい部位に用いられることが多いです。
脳の場合手術にとても高い技術が必要なのは想像に難くありませんし、乳房では美容の面、泌尿器ならば人工肛門というケースがあるわけで、それぞれにメリットが考えられるわけです。

他には放射線に対する感受性の問題もあります。
反応のいい部分に照射したほうが結果が早く出ます。ただ、病変部位の近くに高感受性の組織があると副作用や放射線障害が起こりやすくなるため一概に治療の方針を決められない場合が多々あります。

専門性が強い話になってしまいましたが、こんなことをちょっぴりやっています。

本研究室では閲覧者のジャンルが様々であるために、わかりやすさを考えて説明を簡略化していますが、もしも不足な部分や「間違っているのでは…」という部分があればご指摘いただければ幸いです。